最大の脱中央集権的ソーシャルネットワークは「ナチズム問題」にどう対処しているか

Adi Robertson

以下の記事の翻訳です:
“HOW THE BIGGEST DECENTRALIZED SOCIAL NETWORK IS DEALING WITH ITS NAZI PROBLEM”

Mastodon は、巨大で中央集権的なネットワークに跋扈する、敵意に満ちたあるいは醜いコンテンツの排除をかかげ、ここ数年、フレンドリーな SNS の手本となってきた。ジャーナリストはこれを「ナチ抜きの Twitter」と名付けたが、Mastodon はその名にたがわず宣言を守り続けてきた。しかし先週、Gab という SNS が自らのプラットフォームを Mastodon に切り替えた。Mastodon のサーバー管理者たちは、インターネットのナチズム問題に正面から対処せざるをえなくなっている。

反応は様々で、複雑だ。有力な Mastodon サーバーの多くは、すでに人種差別的な行為に対してモデレーションを行なっているので、Gab は個々のサーバーによって次から次へとブロックされている。しかし、それ以上の対処をすべきかどうかは論議の的となり、Mastodon コミュニティ内に深刻な疑問を投じている。Gab が Mastodon を採用する前、あるユーザーは、Mastodon は 全てのサーバーが Gab がらみのサーバーを自動的に排除するようソースレベルでハードーコードするべきだと主張した。極端な対処だが、当該ユーザーはそうすべき根拠があるとして次のように述べる。「Gab は大量射撃犯や殺人者を焚き付けてきた。これがどのような種類の脅威であるか、みな理解できていない」

一方で、Mastodon の創始者 Eugen “Gargron” Rochko は the Verge のインタビューに答え、Gab による Mastodon フォークに反対する焦土作戦的キャンペーンは現実的でないと述べる。「これはぜひ分かって欲しいんですけど、Mastodon は脱中央集権的だから、プラットフォーム全体で何かをするのは事実上不可能なんです。自分にはそんな権力はありませんよ」

Mastodon のように脱中央集権を掲げるプロジェクトの、最も根っこにある制約から生まれてしまったものであるだけに、これは頭の痛い問題だ。Mastodon は理想主義的なオープンソースソフトウェア活動から立ち上がってきたプロジェクトであり、望めば誰でも自分のソーシャルメディアサイトを構築できるよう設計されている。しかし、Gab のような存在を支援することは全く意図していない。Gab は公式には政治団体からの支援を受けていないものの、極右あるいはファシストを公言する、より大規模なネットワークには居場所がないほど先鋭的なユーザーにとっての避難場所として知られている。モデレーションは野放しだ。作者が「Gab のプロジェクトと思想には完全に反対だ」と公言してはばからない Mastodon を支持する多くの人々からすれば、それは受け入れがたい姿勢に違いない。

Mastodon サイドには、Gab の動きをオープンなプラットフォームの運営上避けがたい不運な副産物と考える立場と、これを現実の危機、つまり自らの道徳的な立ち位置を明確にする機会だととらえる見方の2つが存在しているようだ。

一見、Mastodon は Twitter のようだ。ユーザーは「トゥート」(名付け親は初期の資金提供者)と呼ばれる 500 文字のメッセージを投稿し、自分のタイムライン上の投稿を「ブースト」つまりリポストし、他のユーザーをフォローし、プライベートなメッセージを送ることができる。しかし違うのは、一企業が運営する単独のサイトではなく、オープンソースの ActivityPub プロトコル上に構築されたソフトウェアであるという点だ。Rochko は言う。「Mastodon は基本的に、ソーシャルメディアウェブサイトをホストするための手段なんです」

2016年のプロジェクト立ち上げ以来、Mastodon ユーザーはそのようなウェブサイトを何千も構築してきた。(ある非公式のディレクトリーによれば、現在 2500 のサイトが稼働中である。)たとえば、Rochko 自身が運営する Mastodon.Social のような多目的フォーラムや、オープンソースソフトウェアフリークが集う Fosstodon のような関心ベースのコミュニティが形成されている。Tumblr を追われたポルノ製作者のためには Sinblr がある。中には、“e” の文字しか投稿できない Dolphin.Town のような、 きわめて実験的なインスタンスも存在する。

多くの Mastodon インスタンスは、巨大 SNS よりも高い基準をユーザーに課している。しかし Gab では、ユーザーは驚くべき量のヘイトコンテンツを投稿しており、ただでさえほとんど行使されないモデレーションにも反対している。本記事執筆の時点で、Gab のタイムラインの第1ページには「国際的ユダヤ社会」についての警告が掲載され、“#eugenism” や “#ethnostate” のハッシュタグが付与された投稿が並び、リンチ処刑された4人の死体(4人にはそれぞれ、LGBT Pride の虹、ダビデの星、ブラックパワーの拳、フェミニストのシンボルが付けられている)を描いた政治風刺画が「もうすぐ」というキャプションの上に配置されている。

Mastodon はソーシャルネットワーキングサイトではなく、自分でそれを立ち上げたい人のための手段だ

Gab のコンテンツの中には、もはや一線を超え、犯罪行為にまで及んだものもある。6月、英国はテロのプロパガンダを投稿した十代のネオナチ少年二人を投獄した。フロリダ州警察も同月、人種差別的な脅迫を投稿し銃を所持していた1人のユーザーを既決重罪犯として逮捕した。とりわけ 2018 年には、反ユダヤ主義的なメッセージを Gab に投稿した男が直後にピッツバーグのシナゴーグを襲撃し、11 人を殺害するという事件が発生した。Gab は、憎悪を容認しているという指摘を否定する。CEO の Andew Torba は、一部の例外を除き、「米国において合法的な」言論を認めているに過ぎない、と述べている。Facebook や Twitter にもヘイトスピーチや暴力的な脅迫が含まれているとする Gab の指摘は正しい。Gab はそれらよりもずっと小規模だが、しかし、悪質な投稿が並外れて集中している。

Gab が Mastodon に移行した際、そのような悪質な投稿がより大きなプラットフォームに流れ込むという事態が懸念された。Mastodon では、あるインスタンスのユーザーがほかのインスタンスのユーザーと交流することができ、それによって “Fediverse” という空間が形成されている。こうして Mastodon はあたかも全体が 1 つのコミュニティであるかのように感じられるが、初期状態では、インスタンスのユーザーを他のインスタンスの悪質なユーザーからの攻撃にさらしてしまいかねない。幸い、管理者にもインスタンスブロックという対抗手段があり、特定のサーバー発の投稿やユーザーを排除することができる。

今までのところ、それが Gab に対するデフォルトの対応となっている。Mastodon の公式サイトはインスタンスのリストを含んでいるが、Mastodon Server Covenant という誓約を守ると宣言したインスタンスだけをリストするという意志が明確だ。この誓約は「人種差別、性差別、同性愛嫌悪、トランスフォビアに対して積極的なモデレーションを行う」ことをサーバーに義務付けており、Gab との関わりをほとんど拒絶するものである。Rochko は、これがもっとも明白な対処だと見ている。「Mastodon のソフトウェア自体はオープンソースのフリーソフトウェアライセンスの下で公開されています。もちろんそれは大きな利点を生んでいるんですが、欠点が全くないかというと、なかなかそういうわけにも」

メジャーな Mastodon インスタンスに今登録したとしても、Gab と関わりを持たなければならない可能性はほとんどないだろう。Rochko は「自分が知っている、あるいは交流しているサーバーの管理者は、皆すでに Gab をブロックしています」と述べる。もちろん Mastodon.Social も例外ではない。「Gab は、ほとんど隔離されている状態ですね」

Gab には Fediverse は不要なのかもしれない。ホスティングや支払いの処理、ドメイン登録、あるいはその他の基本的なインフラに関して、 Mastodon に依存しているわけでもないのである。ただ、先日の Motherboard の記事によれば、Gab は「Mastodon のおかげで、このおれを止められるやつはもういなくなった」と述べている。実際、Mastodon のおかげで今までの大問題が解決するかもしれない。それは、モバイルアプリからのアクセスだ。

Apple も Google も、Gab のアプリを何年も前にストアから閉め出した。しかし Mastodon には対応アプリがすでにふんだんに用意されており、移行によって、Gab ユーザーはその選択肢を手にすることができる。これで、SNS を活用する上での大きな障壁が1つ取り除かれることになるわけだ。7月10日の段階で Gab は Google Play Store に復帰しているように見えるが、仮にまた禁止されたとしても、Mastodon プロトコルの使用はユーザーに多くの代替手段を保証する。

これで、アプリから Gab へのアクセスを許可するかどうかが「戦場」になってしまった。開発者はサイトへのログインを不能にしたりコンテンツを完全にブロックすることで Gab を閉め出すことができる。実際、複数のアプリがまさにそれを行なっている。Mastodon はそのホームページに 6 本のモバイルアプリを掲載しているが、そのうちの 4 本(Android の Tusky、iOS の Toot!、Mast、そして Amaroq)が何らかの形で Gab をブロックしている。

もしヘイトスピーチが自分のアプリ上で自由言論の皮をかぶって横行するなら、それらをモデレートするのは自分の責任だ

Amaroq の開発者 John Gabelmann は、the App Store で起こりうる問題を避けるために Gab を禁止した。The Verge とのインタビューで、Gobelmann は次のように述べている。「私はとにかく Amaroq を公に利用可能な状態にしておきたいので、Apple のポリシーには全て従う必要があります。Apple のポリシーは、モデレーションされない過激なあるいは不快なコンテンツをストアから排除するというもので、あるネットワークがそのようなコンテンツ野放しのまま拡大して Apple に睨まれるようなことになったら、Amaroq は Apple の方針に従うしかありません。」

Mast の開発者 Shihab Mehboob は、ユーザーからの要望に応じて Gab をブロックした。怒った Gab ユーザーたちから星 1 つの評価を受けたが、それでも次のように述べる。「もしヘイトスピーチが自分のアプリ上で自由言論の皮をかぶって横行するなら、それらをモデレートして可能な限り減らすのは自分の責任です。もちろん Fediverse はオープンな場であって、そこで何を見、使い、何と関わるかはユーザーの自由。しかし、だからといってナチズムに基づいた思想を擁護するわけにはいきません。どこかで線を引かないと」

もし Google が Gab を禁止したいなら、まず Chrome ブラウザーを何とかしないといけなくなる

このようなブロック行為は Mastodon の使命に反する、と考えるアプリ開発者もいる。Android で動く Fedilab の無料版は、Google Play Store のポリシーに抵触する恐れから、当初、Gab をブロックした。しかしその後、ブロックは解除された。開発者は、「自分はアプリでインスタンスをブロックするということ自体を行わない。それは自分の役割ではない。もし強力なブロックを望むなら、それを行う力はソーシャルネットワークの開発者やサーバー管理者が持っている」と述べている

Subway Tooter の開発者 Tateisu は、Gab をサポートするアプリをストアが検閲するだろうとは考えていない。「ブラウザーを使えば、Webアプリを動かすことができるでしょう。もし Google が Gab を禁止したいなら、まず Chrome ブラウザーを何とかしないといけなくなりますよね」

Gab は 移行前から 100 万を超えるアカウントを擁しているとして、Mastodon 最大のインスタンスを自称する。これは、従来最大だった日本の Pawoo のほぼ倍であり、それに次ぐ Mastodon.Social の3倍だ。

Rochko はこの数字に異を唱える。Mastodon 移行前の数字であり、そのうちのどれほどが現在もアクティブか、未知数だからだ。また多くの場合、Mastodon コミュニティは意図的に小規模を保っている、ということもある。ある程度のところで新規登録を制限、あるいは停止するサーバーがあったりする。Gab は自分が忌み嫌う「巨大テック」サイトの対抗馬としての地位を確立したいようだが、Mastodon の大きなウリは親密さなのである。Darius Kazemi というプログラマーが Gab の Mastodon 移行 4 日後にアップした、小さなコミュニティの価値を詳しく力説するガイドに述べられている通りだ。

Gab ユーザーの中には、「新プラットフォームへの侵略」という考え方を示す者もいる。あるユーザーは今回のプラットフォーム移行を映画『シャイニング』のワンシーンによって示し、斧を振るうジャック・ニコルソンを Gab に、泣き叫ぶシェリー・デュヴァルを Mastodon に見立てた。しかし、Mastodon への参加は、従来の中央集権的なソーシャルネットワークを自分の仲間であふれさせるような行為とは性質が違う。ほとんどのインスタンスが Gab をブロックすれば、たとえ最大規模の Mastodon ノードであったところで、それは WordPress でサイトを作ったとか、Slack でワークスペースを作ったとかのグループのうちで最大だ、くらいの意味しか持たないのである。プラットフォームの乗っ取りというような大ごとではなく、まあそんなことでも自慢したいのならご自由にどうぞ、程度の話に過ぎない。

Gab は最大の Mastodon ノードを自称するが、話は単純ではない

Gab ユーザーが Fediverse の住人たちとどの程度交流しているのかは不透明だ。ハラスメントへの危惧から匿名を希望した某有力 Mastodon インスタンスの管理者は、自鯖において Gab 関連の活動はまだ目にしていないという。一方、やはり匿名の他のサーバー管理者は、「人にケンカをふっかけたり攻撃したりするユーザーについての報告が増えています。主にトランスジェンダー関連の話題ですね」と言う。

この管理者が言うには、直接的な行為はないにしても、Gab が Fediverse の一角に存在しているという事実自体が基本的な不安材料となり、人々の心を苛んでいる。あるユーザーが他のユーザーの性別を誤って記述した時、単なる誤解だったにも関わらず、「お前は Gab の人間だろう」と総攻撃を食らってしまったということがあった。「ユーザーは前よりも極度に敏感になっています。でも、それは責められません」

Gab 以前にも、もちろん Mastodon が問題に直面したことはある。例えば、今年初めに The Daily Dot が報じたように、プラットフォームから無視あるいは軽視されたと感じている非主流派のユーザーがおり、中には、「Rochko の開発プロセスの問題」のせいで Mastodon を去ったと言う人もいる。しかし、Gab の移行は Mastodon の使命の核心を揺さぶっているように思える。安全性とオープンさという、立ち上げの2つの理念が互いに対立するような状況を強いられてしまったのである。

結果的に Gab を擁護する形になってしまっている人たちも、Gab で流通しているコンテンツについて論じようとはしない。(Subway Tooter の開発者は、「ナチズム問題」について当初は認識していなかったことを謝罪した。)問題はもはやそこにはない。Gab との関わりを避けられるよう個々のユーザーや管理者を支援するか、それとも、可能なあらゆる手段を使って Gab を Mastodon から徹底的に追い払うか、そのどちらを選ぶかが、今問われているのだ。

Mastodon はオープンであることを目指している。しかし、安全な場でありたいとも願っている

Tusky が Gab をブロックした時、F-Droid リポジトリに次のような意見が投稿された。Tusky はもはやフリーソフトウェアだと考えるべきではない。たとえオープンソースの規約に沿っているとしても、コードに検閲を組み込んだ時点でその精神に違反してしまった。またあるユーザーは、Gab へのログインを許している Fedilab に対し、「偏見を助長しています」フラグを付けるよう要望することで反感を示した。自分がトランスジェンダー女性であることで激しい攻撃を受けてきたというそのユーザーは、次のように書いている。「これは言論の自由の問題ではない。特定のグループに対する憎悪表現を可能にしているかどうかの問題だ。アプリにブロックを要請しているわけではない。ただ、どのアプリが他者への非寛容に対して積極的に戦っていないのかを知りたいだけだ」

Mastodon が直面している困難は、オンライン世界で発生している、より大規模な問題の縮図だ。インターネットによって極めて多くの人間が自らの意見を拡声することができるようになったが、その副作用も明らかになってきた。管理者の廃止は、誤った情報と憎悪の台頭を招く。検閲を受けないオンラインフォーラムは、偏見の持ち主と攻撃者の手玉に取られ、力の弱い攻撃対象が沈黙を強いられる。そして、現実世界に生きる人を標的にした暴力的な至上主義者の活動を前に、インターネット文化でかつて疑う余地のなかった重要な価値の柱、「オープンであること」は、もはや絶望的なまでに抽象的な理念にすぎないように見える。

いま、Mastodon とそのメンバーたちは、2つの悪い選択肢の間のどこかに自分達の進む道を見出そうとしている。もし彼らが完全に Gab を黙認するなら、非主流派にとっては居心地の悪いコミュニティとなるだろう。しかし、もし戦いの道を選ぶなら、その過程で Mastodon 世界の分裂を招く恐れがある。そして、どちらにしても確かなのは、当面、これまで何年も自分たちのコミュニティを大切に育ててきた管理者や開発者たちが何をするのかが、Gab の台頭によって大きく注目されることになってしまったということだ。

対話を終えるにあたり最後に何か付け加えたいことはないか尋ねると、Rochko は述べた。「こういうのって、周辺についての話じゃないですか。せっかくMastodon についてまた話せることになったのに、それが残念。何か Mastodon そのものに関して詳しく語りたかったです。こんな、Gab なんかのことじゃなくて」

投稿者:

鼻毛スライサー

自分の力と意思だけでインターネットに浮かんでいます

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